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【02】 集えば、如何に賑やかな
家に帰ると恋人の渚が蕎麦を茹でていた。
柚月渚。
恋人と言っても立派な成人男子である。
俺は女がからっきし苦手なので、男子の恋人を持っている。
女が苦手な理由はいくつもあるが、最大は母親か。
俺の母親は一見、奥ゆかし気な美女だが、いかんせん、男にだらしなかった。
精液まみれの足のまま、いつも下着姿でその辺に転がっていた。
俺を育てるため、といいつつ、男が好きで身体を売って金を得ていた。
これ以上はもう無理だ、となった事件が、俺が母親に欲情されて騎乗位をされて、子供を成してしまった事件だ。
母親を階段から突き落として、死産させた。
母親も死ねばよかったのにと思うが、しぶとく、母体だけ生き残った。
死産した子供には申し訳ないと思っている。
それで俺は、黒装束に身を包むようになった。
せめてもの懺悔に、喪服の色である黒しか着ないと決めたのだ。
長くなったが、まぁそんな経緯があって、俺は渚と暮らしている。
渚は線が細く、色も白く、髪色まで珍しい白髪で、
見目麗しい容姿をしている。
が、愛嬌のある笑い方の為、綺麗というより可愛いという印象の方が強い。
やきもち妬きで笑い上戸で、時折凄い色香を放つ。
余りの色香にくらくらするときがあるくらいだ。
と言っても本人にはその自覚はない。
渚は自分のことを多くは語らない。
だから俺も、渚と出会った二十歳の時から、二十四になるまでの四年間の渚のことしか知らないのだった。
昔酔って言っていた。
自分は『鬼』だと。
その意味はいつか知りたいと思いつつ、今まで詮索せずに来た。
けれど最近気づいたことがある。
渚は、所謂、霊媒体質だ。
前に渚が霊に憑かれたことがあって。
ばーちゃんが霊能力者だった俺は、たまたま降霊術ができて、うっかりその霊を祓ってしまったため、俺は陰では心霊作家、祓い屋、などと不本意な名前で呼ばれている。
その呼び名が嫌すぎて、何度渚を放り出そうと思ったか知れない。
けれどいつも思いとどまるのだ。
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