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渚を失っては生きて行けない。
そう思うからだ。
俺は本当に渚にぞっこんだった。惚れこんでいた。死別しようものなら後を追おうとまで考えていた。
そんな俺に、渚は茹でたての蕎麦を持ってきてくれた。
「久遠先生、本屋の見張りどうだった?」
「本屋の見張り?見張りってなんだ。俺はちょっと散歩してきただけだぞ」
「知ってるんですよぉ、先生。貴方が御自分の本の発売日に、本屋にペターと張り付いて、御自分の本の売れ行き確かめてるの。斎藤様が言ってましたもん」
おのれ斎藤恭二。幼馴染だとて許さんぞ。
斎藤恭二とは、四つ上の幼馴染で、腐れ縁と言ったところか。
妙な縁で、今は俺の編集をやっている。
こいつが渚を狙っているので、こちらは冷や冷やしてならない。
渚本人は全く気付いていないようなのでますます不安が増す。
だが人柄は朗らかで懐のデカい男なので、これまた縁も切りたくない。
悩ましい……本当に悩ましい問題だ……。
「おや、噂をすれば」
「久遠先生、書いてますか?」
「斎藤……勝手に入ってくるな」
斎藤はドカッと腰を下ろし、土産の酒を置いて豪快に笑った。
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