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ある日。
杖をついた男性が通りました。
地震のせいでこの街を離れた男性です。
久々にやってきた故郷です。
「あれ? ここは洪水のときに避難したビルがあったのに」
素敵なワンピースを召した女性が通りました。
「真夏日にここで涼ませてもらったの。あら……なくなってしまったのね」
ブレザー姿の学生さんが通りました。
「雪で停電したとき、温かいシチューをごちそうになったんだ。いつの間にかなくなってしまったのか」
皆はビルがなくなったことを知り、残念がりました。
そして同じことを口々に言いました。
そうです。
“あのときのお礼をしていなかった”───────。
*―*―*
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