オメガ社長は秘書に抱かれたい

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 だが、後先考えずに出た行動は、そう簡単に受け入れてはもらえなかった。射し込んだ西日で影の落ちた高辻の表情を見た時、奏は失敗したことを悟った。  ――急に言われても……。  高辻はそう口ごもった挙句、返事をしなかった。ただただ困惑した表情をうつむかせ、奏との間に沈黙を育てたのだった。  それから高辻は、一週間もしないうちに学校を辞め、奏の目の前から姿を消した。周囲には家庭の事情と伝えていたらしいが、奏は何も聞かされていなかった。  恋愛対象はおろか、友達としても高辻にとって自分はその程度の存在だったのだ。『運命の番』だと勘違いし、一人で盛り上がった自分が馬鹿みたいだった。  その現実に直面した時、奏の中に強い怒りが芽生えた。誰の目にも触れさせたくなくて、押し入れの奥に厳重に隠していた大事なものを引きずり出されて壊されたような、そんな気持ちに襲われた。  高辻がいなくなったあと、高辻がよく座っていた壁際の隣に座り、奏は激しい怒りを奥歯で噛みしめた。  高辻の不機嫌そうな声が、昼休みを終えるチャイムの音にかき消される。急に消えた男が恋しくて恋しくて、涙が止まらなかった。
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