オメガ社長は秘書に抱かれたい

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 奏は腹を両腕で押さえながら、その場にうずくまった。突然苦しみだした奏に慌てているのか、セミナー会場のあちこちから、悲鳴のような声が上がる。 「はあっ、はあっ、はあっ……っ」  苦しみに歪む声を、抑えることができない。誰でもいい。今すぐ抱いてほしい。暴走する思考に、奏は激しく混乱した。 「芦原さん大丈夫ですか!?」  床にうずくまる奏に、鈴田が同じ目線まで屈んで訊いてくる。 「だ……じょ、ぶ……っ」  大丈夫なわけがなかった。  ガタガタと震える手で、奏はポケットから抑制剤を取り出そうとする。だが、一旦取り出した抑制剤は、覚束ない奏の手から落ちた。  拾おうと手を伸ばそうにも、抑制剤は奏の薄れゆく視界の中で、コロコロとタイルカーペットの上を転がっていく。気づいた時には見失っていた。  こんな時に限って、高辻はどうしても外せない社内のテレビ会議のため別室にいる。息も絶え絶えになりながら、奏はせめて椅子に座ろうと立ち上がる。だが足がもつれてしまい、ちょうどそこにいた鈴田に寄りかかってしまう。  鈴田はΩだとビジネス雑誌で読んだことがあるので、自分のフェロモンに影響される心配はない。さいわい、Ωの経営者に師事を仰ぐ参加者も、Ωやβである場合がほとんどだ。  そんな状況をかすかに残る理性で判断しつつ、駆け寄ってきた司会女性に抑制剤を落としてしまったことを伝えた。女性が周りの参加者に奏の言葉を伝えると、会場内で一斉捜索が始まった。  だが、抑制剤はなかなか見つからなかった。そろそろ本格的に人に見せられない醜態を晒してしまいそうで怖い。  奏は近くにいる鈴田に「どこでもいいから、部屋を取ってくれないか」と頼んだ。ここはホテルだ。鈴田が頼んだら、急なことでもホテル側は対処してくれるかもしれない。  鈴田は「あ、ああ……分かった」と汗ばんで光る額を手で拭い、早速ホテルのフロントにスマホから電話をかけた。ホテル側の計らいから、告げられた番号の部屋に直接行ってくれていいとのことだった。  奏は鈴田とその秘書である男に支えられながら、用意してもらった部屋に向かった。部屋に連れられると、男二人がかりでベッドに寝かせられる。 「ありがとう……たすか、った……」  仰向けになって、瞼の上に自分の腕を乗せる。息も絶え絶えに礼を言うと、鈴田と秘書が小声で何やら話しているのが聞こえた。  だが、話の内容に耳を傾ける余裕なんてなかった。二人が出ていくのを待ってから、奏は早速下半身を纏うズボンを脱いだ。皺になったって、構うものか。ジャケットも脱ぎ、シャツのボタンをむしり取るように外す。  改めてベッドに体を沈めようとして、ふと前を見る。するとそこには、肩を激しく上下させた鈴田が、睨みつけるような目でこちらをじっと見据えていた。赤くなった顔が汗ばみ、息も荒い。
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