オメガ社長は秘書に抱かれたい

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 さすがに逃げられないと判断したのだろう。鈴田は情けない涙声で白状した。 「目の前で急にヒートになって……完全に出来心だったんだよっ」  鈴田の目的を聞いた高辻は、鈴田の体を離すと、打って変わって丁寧な手つきで鈴田の乱れた服を直させた。  背を向けているので、高辻の表情までは見えない。ただ鈴田の首元に添えられた高辻の両手に、ドキッとした。一瞬だが、まるで首を絞めているかのように見えたからだ。  高辻は賢い。そして理性的な男だ。高辻に限って、まさか自分のためにそんな乱暴なことはしないはず……。  奏の心配をよそに、高辻は事務的だった。 「弊社の社長はあなたが手を出していい方ではございません。どうかお忘れなく」  奏側からは見えないが、自身の首に回された手に、鈴田は殺気を感じたのだろうか。「ヒッ」と頬を引き攣らせると、足をもつれさせながら逃げるように部屋から出て行った。  部屋に二人きりになる。高辻を見て、心だけではなく身の警戒心も解けた奏だった。再び襲ってくる腹の奥の激しい疼きに、奏の息が荒くなる。 「あのような成り上がり男の衝動を煽って、どうするんですか」  高辻は建付けの悪くなったドアを無理やり閉めて言う。 「おまえが……知り合いに、なれ……って」  奏は胸を押さえた。とめどなく体の中から沸き起こる性衝動が、苦しくてたまらない。 「たしかに言いましたが、こういった形で仲良くなれとは言っておりませんが」 「僕だ、っ……そんな、つも、じゃ……っ」  突き上げてくるような衝動に、我慢できる気がしない。高辻の前だろうと関係なく、奏は剝き出しになった下半身に手を伸ばした。  触れたそこは、ほぐす必要もないほど濡れている。指一本なんて足りない。疼く場所を擦りたい。早く楽になりたい。奏は自身の指を一気に二本入れ、敏感な場所を探った。 「……今回はまた酷いですね」  高辻は手で鼻を覆う。高辻の表情が、いつになく険しい。抗フェロモン剤を飲んでいるとはいえ、今回はやはり自分から発せられるフェロモンの濃度が濃いのかもしれない。  指で抽挿(ちゅうそう)を繰り返すたびに、こぼれる愛液がベッドを濡らしていく。早くここを、何かで擦ってほしかった。熱いもので、強い刺激を与えられたかった。  実際、発情した自分の体は、挿れてもらえるのなら何でもいいと叫んでいる。だけど、心はそうじゃない。高辻だけがほしい。  奏は本能と理性の狭間で意識を保ちながら、這いつくばってベッドの端に立つ高辻の傍に向かった。スーツの袖を引っ張り、高辻に縋りつく。 「り、ひと……おねが、い……っ。挿れて……っ今回だけで、いい、から……っ」  何でもいいけど高辻がいい。高辻がいいのに、楽になれるなら何でもいい。でも……何でもいいなら、やっぱり高辻がいい。矛盾だらけの欲望が苦しかった。  そんな奏に、高辻は眉根を寄せ、チッと舌打ちした。鈴田から奪い返した抑制剤をメモリに合わせてセットし、奏の太股を開かせる。 「なっ……やだ……!」 「楽になりたいのでしょう。これくらいの痛みなら、我慢できるはずです」  奏は「嫌だ」と暴れる。そうじゃない。そうじゃなくて……。分かっているはずなのに、はぐらかそうとする男に悲しくなる。
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