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調子に乗っていると思われてもいい。どうせこの社会は、人は見た目がすべて。仕事は結果と評価がすべてだ。
そう自分に言い聞かせ、この五年間、奏はあえて自分の苦手とする社長像を追求してきた。はじめは背筋を伸ばして肩を張りながら歩くのもぎこちなかった。
だが、形から入ったことが次第に功を奏したようだ。今では、やり手のイケメン若手二代目社長として、経営者向けセミナーに引っ張りだこだ。先日も雑誌のインタビューで、大物サッカー選手と対談したばかりだ。
「僕の周期を把握してるくせに……周期でいったら、ヒートは来週くるはずだ。来週は人前に出る仕事を入れるなと言っただろ」
奏は自分と同い年の秘書を睨む。社長である奏に承諾を得ることなく、スケジュールを入れてくるのはいつものこと。だが、今回ばかりは文句を言わずにはいられなかった。
「もちろんです。しかし、自分の体調を管理することも社長の仕事なのでは? 先日対談した金本選手も、ヒートをピルでコントロールしているとおっしゃっていました」
「僕はサッカー選手じゃない」
「そうですね。あなたの仕事は経営です。だからこそ、ピルの処方も考えた方がよいかと。体もずいぶん楽になるといいますよ」
奏は椅子から立ち上がり、手元の契約書を男に向かって投げつけた。他人事だと思って、軽々しく提案する男が許せなかった。
この世界には男女の性別のほかに、α、β、Ωという三つの性別が存在する。
αは希少価値が高く、男女ともに身体能力や知能が高い傾向にある。そのため社会的地位を得やすく、官僚や医師や弁護士、そして会社経営者などの職種に多い。βは能力的に平均的で、世間ではいわゆる『普通の人』と揶揄され、人口が最も多いのが特徴だ。
そして三つ目の中で一番人口の割合が少なく、男女ともに妊娠できる生殖能力に特化した性別――それがΩだ。Ωはその能力ゆえ、ヒートという発情期が訪れるたびに、αの発情を促すフェロモンを体から放つ。
フェロモンの威力はすさまじく、昔より精度の高いピルや抑制剤が出回った現代でも、Ωのフェロモンに当てられたαによる性犯罪事件のニュースをたまに聞く。
バース性検査を受けたのは、奏が高校一年生の学校の健康診断だった。奏はそこで、Ωと診断されたのだ。
当時、奏のまわりはαばかりだった。両親も祖父母も、一人っ子の奏と幼い頃から遊んでくれた従兄弟たちも、全員だ。そんなαの家系において、自分だけがΩだったことが、当時はショックだった。
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