オメガ社長は秘書に抱かれたい

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 伸びてくる両手に頬を挟まれ、上を向かせられる。困惑していると、その手をグイッと別の手が引き剝がした。 「うちの社長になにか?」  美弥子の手を取ったのは、高辻だった。  睨みを利かせる高辻に、美弥子はにこやかに笑った。 「奏さんが苦しそうだったもので、つい。それよりお部屋はお取りできましたの?」 「ええ、取れましたよ」 「そう。ありがとう」  美弥子は品のある笑みを浮かべたまま、捕らえられた手を自分側に引っ張る。だが、高辻はその手を離そうとはしなかった。 「ちょっと……離してくださる?」  高辻はもう片方の手に持っていた部屋のカードキーを、美弥子の手に握らせた。そしてようやく相手を拘束していた手を解放した。  美弥子は笑顔と一緒に不審な目を高辻に向けつつ、掴まれた手首をさすった。  高辻は奏と同じ目線に膝を折った。 「社長は腰が抜けて立てないようですので、私が肩をお貸します」  高辻がそう口にした瞬間、落胆の波が奏の胸に押し寄せた。ホテルに泊まると決めたのは自分だ。頭では分かっているが、高辻に体を支えられてその部屋に向かうのかと思うと、ショックで言葉が出なかった。  焦燥感に似た不快感に襲われる。自分の足で向かうのとは訳が違う。嫌だ、と思った。 「い、いい……自分で歩く」  奏を立たせようと、奏の肩と腕を自身の首に回そうとする男に抵抗する。だが、抵抗はあっけなく破られ、奏は高辻に立たせられた。  次の瞬間、高辻が離れたと思ったら、奏の体はふわっと宙に浮いた。視界が反転し、気づいたら目線が高くなっていた。高辻の力強い手によって、肩に持ち上げられたようだ。 「ちょ、理仁おまえ……っ」  奏は男の肩の上で脚をばたつかせる。ただでさえ人前でヒートになってしまい恥ずかしい思いをしているのに、こんな格好までさせられるなんて。しかも疼いた腹奥が、高辻の硬い肩に押されて変な声が出そうになる。 「放せって! なあ!」  ほとんど泣きそうな声で訴えるも、高辻は放してくれない。奏の声を無視した高辻は、美弥子に向かって営業的な声を放った。 「本日は芦原にお付き合いいただき、誠にありがとうございます。我々は東京に戻りますが、貴方様は休まれてからお戻りになったらいかがでしょうか」  高辻と美弥子と反対方向に担がれているので、奏からは高辻がどんな顔をしているのか見えない。ただ、「お一人で」と付け足した声は、恐ろしく冷たかった。
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