オメガ社長は秘書に抱かれたい

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 その中から奏は『奥谷』という名前を探してみた。だが、ざっと見ても該当の名前は見当たらない。  名刺ファイルを棚に戻してから、他に人物リスト系のファイルを探すため、人差し指でファイルの背をたどっていく。とあるファイルの背に書かれた文字が目に留まった時、奏は指を止めた。 「これって……」  すかさず指の腹でファイルを傾けて抜きとった。軽くパラパラとめくって中を確認する。  それは間違いない。軽井沢で高辻と言い争った時に、高辻が奏に『渡した』と声を荒げて主張したファイルだ。奏にとって要注意となりそうな人物をまとめたと言っていた。  何のために高辻がこんなものを作成したのか。渡された時も、軽井沢の一件の時も疑問にすら思っていなかった。  高辻は多忙な中、どうしてわざわざ写真を付けてまでファイルにしたんだろう。そして渡してきたんだろう。今さらながら、奏は高辻の意図を考えた。  中を開いて、内容に目を通す。ファイルの中に収められていたリストは顔写真や名前、経歴や職歴、バース性といった個人情報が記されている。履歴書のようなものだった。  会社役員や銀行員、奏の会社を辞めた元社員など業種も職種もバラバラ。高辻の言うように、若い女性である美弥子の資料もある。男女の性別も年齢もとにかくバラバラだった。  目で追っていくうちに、奏はリストに載った人物の共通点に気がついた。それはファイリングされていた人物たちのバース性が、皆αだったこと。そして、全員が全員、奏と面識のある人物、もしくは共通の知人のいる人物だったのだ。  しかも個人情報の列挙する下の備考欄には、高辻の達筆な文字で何かが書かれていた。その文字に、奏は目を疑った。 『Ωを強姦した犯罪歴有り』 『Ωへの蔑視発言を複数回に渡りメディアで発言』 『周囲のΩを妊娠・堕胎させた経歴有り』  など、Ωに関する犯罪歴やあくどい経歴が、一人一人に記載されていたのだ。それが約百人分。美弥子だけではない。以前、経営者セミナーで奏の抑制剤を奪い、事に及ぼうとした鈴田という社長のリストもあった。  ここまで調べ上げるのに、どれだけの時間と労力を費やしたのだろうか。どうしてここまでして、高辻は自分の身辺を気にかけていてくれたのだろう。自分の雇い主がスキャンダルや事件に巻き込まれ、会社の業績が下がるのを防ぐため?   奏は胸が熱くなった。ファイルを胸に抱く。高辻の行動の裏にある意図が、奏の為ではなく会社の為だったとしてもいい。奏が父から譲り受けた会社を、守ろうとしてくれた。大事にしてくれた。それがとにかく嬉しかった。
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