オメガ社長は秘書に抱かれたい

47/50
前へ
/50ページ
次へ
 自分の唇がどれだけ冷えていたのか分かるほど、高辻の唇は温かい。ずっと味わっていたい。高辻は一旦唇を離し、奏の顔を覗き込む。熱を孕んだ目には、今にも泣きそうな自分が映っている。 「……やっぱりお人好しだ」  再び唇が降ってくる。唇から移動した温もりが、頬から瞼の上、額へと順番になぞるように移動する。くすぐったさと心地よさでうっとりしているうちに、背中に回された手にきつく抱きしめられる。 「あなたが好きです」  耳元で言われたその台詞に、胸が熱くなった。ずっとほしかった言葉だ。嬉しいのに悔しくて、思わず「……おそい」と言う。 「あなたは?」  知ってるくせに。言わなくても、分かっているくせに。意地悪なことを訊いてくる高辻にむっとする。  高辻の背中越しに循環バスのヘッドライトが遠目に見える。奏は男の背中に手を置いた。 「好き」  たった二語を舌に乗せる。初めて口にしたような気がして、嬉しくて、ちょっと泣いた。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

927人が本棚に入れています
本棚に追加