オメガ社長は秘書に抱かれたい

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「おま……っこそ、抗、フェロ、モざ……っ」  抗フェロモン剤を飲んでいないのか。そう訊こうとしたが、声にならなかった。柔らかくなった後ろに、衝撃が走ったからだ。受け入れる準備が整っていたそこは、高辻のペニスを根元まで受け入れていた。圧迫感が奥まで届いているのが分かった。  その一突きでイッてしまった奏は、声も出なかった。ビクビクと体を震わせる。 「……っ動いてもいいですか」  男の低い声が、耳元で訊いてくる。むき出しになりかけている本能を理性で押しとどめているのだろう。額に滲む汗が、それを物語っていた。  奏は震える手を伸ばし、男の額に触れる。指先で汗を拭い、自分の口にもっていく。ぺろりと男の汗を舐める。舌の上に塩味が広がり、これが高辻なのだと思ったら愛おしさがこみ上げた。奏は脱力した頬を上げて笑う。 「……いいよ」  高辻はたまらないというように顔を歪ませたあと、ゆっくりと腰を前後に動かし始めた。徐々に動きが速くなっていく腰を受け止めながら、奏は男の背中に縋りつく。 「あっ、は……っん……っあ……!」  嬌声と唾液が口の端からこぼれ落ちる。突かれるたびに、緩やかだった快楽の波が激しくなっていく。なんて気持ちいいんだろう。好きな人と、自分を好きだと言ってくれる人と抱き合うことは。 「はっ、あっ、あっ、んっ……ああ……っ」  揺さぶられ、弱い部分を擦り上げられる。肌のぶつかり合う音と、掻き混ぜられるたびに繋がった部分から沸き立つ水音が、耳にこびりつく。  やがて正常位の体勢からひっくり返された。動物のように後ろに覆いかぶさった高辻に、後ろから激しく突かれた。突き上げられて前に出てしまう体を、肘を掴んで固定される。  動物的な激しさが貪欲な快楽を次から次へと呼び起こし、奏は激しく喘いだ。せり上がる快楽を解放したい。イキたい。 「や……っも……う……っ噛ん、で……っ」  わずかに首を後ろにやり、高辻に訴える。最大限に膨らませられた快感を解放したいだけなのに、気づいたら「噛んで」と口にしていた。αがΩのうなじを噛むことで成立する番契約。高辻と番になりたい。高辻だけのものになりたい。高辻を自分だけのαにしたい。  揺さぶられながら、欲望と快楽で頭がぐちゃぐちゃになる。  その時だった。後ろから前に伸びてきた大きな手が、顎から首に添えられた。同時に鈍い痛みが、うなじの皮膚に突き立てられた。 「いっ――!」  痛みとともに、腹の奥が痙攣する。せき止められていたものが、全身を駆け巡る。奏は激しい絶頂に全身を震わせた。  次の瞬間、体内に埋められていた高辻のペニスが大きく脈打つのを感じた。高辻も果てたのだろう。腹奥に熱いものが流れていく感覚に浸る。  全力疾走したあとのような荒い息をこぼす高辻が、覆いかぶさるように背中から抱きしめてくる。高辻のペニスは奏の中で硬さを保ったままだった。まだ足りないのかもしれない。自分だって、そうだ。 「……まだ、するんだろう?」  後ろから腕を回し、抱きついてくる男に問う。高辻は「ええ」と答えたが、それからしばらくのあいだ動かなかった。奏のうなじに何度もキスを落としながら、抱きしめてくる。  前は高辻と抱き合えたら死んでもいいと思っていた。だが今は違う。  死にたくない。  高辻の腕の中で、奏はひたすらそう思った。
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