オメガ社長は秘書に抱かれたい

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「一緒に使えばいいよ。俺、バイトの時間まで寝たいだけだから」  もともと一人になりたくて、人気のない場所まで来たのだ。それでは意味がないじゃないか。そう思いつつ、頭を巡らせて断り文句を考える。だが断り文句も、他に一人で落ち着ける場所も、瞬時には思いつかなかった。  そうこうしているうちに、階段を上りきった男子生徒は、再び元の位置に腰を下ろした。胡坐を搔き、目を閉じて腕を組んだその姿からは、『話しかけるなオーラ』が存分にあふれ出ているように見えた。  なんとなく、その威圧感が悪くなかった。この男の傍にいれば、余計なことを考えなくていいような、不思議な安心感。堂々とした男子生徒の佇まいが眩しかった。  気づけば足を動かしていた。吸い寄せられるように階段を上り、少し間をとってから男子生徒の隣に座る。体育座りになって膝に顔をうずめる。  そこで奏は、自分が一人になりたいわけじゃなかったことに気がついた。 「Ωだったんです」  ポロリと弱音がこぼれる。口にした直後に、名前も知らない初対面の人に自分は何を言ってるんだと後悔する。  だが、奏が誤魔化す間もなく、男子生徒は「ふうん」と相槌を打った。  バース性検査の結果を親よりも先に教えてしまうなんて自分でも驚いた。自分は誰かに聞いてほしかったのだろうか。どちらにせよ、こんな話を急にされては相手も困るだろう。 「すみません……知らない後輩にいきなり言われても、だからなんだよって感じですよね」  腰を下ろしたばかりだったが、奏は慌てて立ち上がった。羞恥心で、あんなに帰りたくないと思っていた家に今すぐ帰りたくなる。 「後輩? 俺、一年だけど」  男子生徒の返しに、奏は「えっ」と失礼な声が出てしまう。その威圧感と堂々とした立ち居振る舞いから、とてもじゃないが先月まで中学生だったとは思えなかった。 「え、だって……」  奏の言わんとしていることを汲み取ろうとしてか、男子生徒は「俺の家は貧乏だからな」と平然と答えた。  どうして先輩に見えたことから、家が貧乏であるという話に繋がるんだろう。疑問に感じるさなか、男子生徒は続けた。 「俺、ひどい恰好してるだろ。こいつのせいで、よく先輩に見られるんだよ。ほら、この学ランも親戚のお下がり」  言いながら、男子生徒は擦れて光沢の出た学ランの裾を奏に見せるように手で伸ばした。 「この上履きなんて中一の時から使ってるからな。小さいし底もボロボロだ」  淡々と説明する男子生徒に、奏は「はあ」と頷く。男子生徒はひとしきり説明すると、「あ、俺D組の高辻」と思い出したかのように付け足した。 「えっと、僕は芦原……A組の芦原奏です」  すると高辻は「知ってる」と言った。
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