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あ、と何か思い出したように楓さんはバッグの中をガサガサとし始めA4サイズのプリントを一枚取り出した。
「そういえば高校のことだけど、椿にはここの学校に通ってもらうのほぼ決定してるんだよね。社長からのお達し。『ほぼ』っていうのは一応編入試験の筆記試験を受けてもらうことになってるだけだから。」
『社長』というのは俺の所属している事務所の社長のことであり、俺の父親のことでもある。その名前を聞き思わず眉間に皺を寄せてしまった。
「……なんで。」不機嫌そうに尋ねると、
「高校生になった頃もまだ活動休止してたとしても再開してたとしても、スキャンダルはご法度だからだってさ。ここは全寮制のしかも男子校。女の子といるところを週刊誌に撮られなくて済むんだよ。」
「それに…」と続ける。
「そろそろダイナミクス検査あるだろ。もしお前がDomかSubだった場合パートナーを見つけなきゃいけなくなるかもしれない。そうなった時に都合がいいのがここの学校だから、と社長は言っていたな。」
ダイナミクス検査。
それは全国の中学校で行われる血液検査のことだ。学校によって受ける時期が違ったりはするので一概には言えないが大体は中学2年で一度受け、その1年後に再度受ける。思春期、成長期などが関係しその一年の間に稀にダイナミクスの結果が変わる場合もあるからだ。
因みにこの目の前にいる楓さんはDomだと聞いたことがある。
……まあ見た目通り、かな。
そしてその検査というのが2週間後に迫っているのだ。
渡されたパンフレットに目を移しながら、
「……楓さんはどう思う。俺はここの学校の方がいいかな。」と問う。
「まぁ…8年お前と一緒にいる俺から言わせてもらうと、正直お前はSubの可能性だってないわけではない。Subに対しての偏見というか特別視というか、そういうものもまだあるこの世の中でお前には苦労してほしくないって思うんだよ。それに、小中学校は仕事詰めで満足に通わせてやれなかったからちゃんと学生生活も楽しんでほしい。」
楓さんの言葉を聞き終えた俺は、「分かった。」とだけ伝えた。
なんだか気恥ずかしくなってパンフレットに向けられた俺の目線上がる事はなかった。
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