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「……『イモ、カボチャは終戦前後に食いあきた。カボチャを使った大福なんざ、どんな客が食うってんだ。塩野大福商店の屋号が泣くべ』って言っていたのは誰よ」
祥子は鼻をすすって手紙をたたむ。
それでも、と隣に座った嶋太郎が祥子へハンカチを差し出した。
「おじいさんは、毎年この季節になると作っていたよ」
「──どうして知っているの」
「毎年、僕のところへ『試作品だ。忌憚のない意見を聞かせてくれ』って送ってきたから。クール便で」
「ぜんぜん聞いてない」
「祥子には言うなってさ。……血筋は争えないね。二人とも頑固だ。あきれるよ」
「それで今回の作品に嶋太郎は『これは美味しい』って答えたの?」
うん、としんみりと嶋太郎はうなずく。それから、はい、と喪服のスーツの懐から取り出した小箱を祥子へ渡した。
「まさか」
「おじいさんのハロウィン限定カボチャ大福」
「持ち歩いていたの?」
「うん。あ。保冷材を入れてあるから大丈夫」
そうじゃなくて、と額に手を当てる。
……コイツと離婚をして本当に正解だった。ハタチで結婚した自分もどうかと思うけれど、火葬場の、今まさにおじいちゃんが灰になっているのを待つこの時間になぜ渡す?
しかも、しんみりと火葬場の火葬炉のあるあたりを眺めている最中である。本当は煙突が見たかったのだが、現在の火葬場で煙突のあるところは皆無だ。
遺言のような手紙を渡されて読むまではいい。
ここで、記載のあった大福を渡す。お前にデリカシーはないのか。
祥子―、と嶋太郎が顔をのぞいてくる。
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