誓約

38/45
前へ
/262ページ
次へ
「竜の時はよく頬を舐めてくれてたけど、人の姿でそれをされると複雑だな」 「嫌?」 「嫌じゃないよ。竜の時は可愛い。でも人の姿になると別の気持ちが生まれて困る」 「別の気持ち?」  ヒースが俺の頭に腕をまわして位置をずらす。鼻がくっついて、唇が触れられそうなほど近くにくる。唇舐めてもいいかな。俺も人型だとドキドキする。  ヒースが複雑な気持ちって言ってたのが分かった。同じ姿かたちをしているだけで、こんなに緊張するし興奮する。きっと弱いところも気持ちいいところも同じだ。人間は皮膚が弱くて感覚が鋭いから、抱き合ってキスするのは大冒険と同じくらい勇気が必要だ。でもすごくしたい。  唇をぺろっと舐めると、ヒースの唇が開いて舌が舐めとられた。腰の辺りにぞわりと震えるような感覚が走る。そのまま舌を吸われて、腕で身体を支えるのがつらくなった。岩だって持ち上げられるのに力が入らない。重くないか心配になりつつヒースの身体の上に体重をかけると、ヒースのもう片方の手が腰を撫で、そのまま服の下に入ってきて、ひんやりした指先が肌の上を行ったり来たりした。眠る時の優しい触り方じゃなくて、くすぐったいような耐えられない触り方だ。 「くぅ……」  喉がなった。キスしていたヒースが唇を離して笑った。俺、絶対真っ赤になってる。もともと髪も目も赤茶色だけど。 「五歳なのにごめん」 「角が生えてるからもう大人だよ」 「ツノ?」 「うん。小さいけど二つ。だから人間の姿でずっといられる」 「分かった。今度よく見てみるよ。かっこいいな、ツノか」 「竜の世界ではもう大人だからもう一回キスしてよ」  ヒースがさっき目を閉じてたから俺も目を閉じると、頭を撫でられて再び唇が重なった。俺、もしかして発情期なのかも。気持ち良すぎてやめられない。   「ヒース様、お食事をお待ちしました」  キスに集中しすぎて扉がノックされたことに気づかなかった。だからジェイソンの声に驚きすぎて飛び上がった。 「ヒース様?」 「分かった。今行く」
/262ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1603人が本棚に入れています
本棚に追加