王族と竜

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 護衛がいなくなって慌てたケネスは宮廷魔道士を呼んだ。ケネスはともかくあの宮廷魔道士は強い。防御魔法を唱えて身構えるけど、大聖堂の中には姿が見えなかった。エリオットたちを追って外に出たのか? 目を閉じて気配を探る。 「ダリ! どこに行った? 戻ってこい!」  目を閉じると、王城の上に強い魔力を持つ光を感じた。それに中庭にも。この気配は覚えがある。でもまさか。  大聖堂の天井が爆風で吹き飛び、空から人が降ってきた。 「ダリ!」    黒焦げだけど、たしかに宮廷魔道士だ。まだ息がある。じわじわと回復してる。  穴の空いた天井から雷雲の立ち込める空が見えた。そこに翼を広げて浮かぶ真っ白い竜。それほど大きくはないけど、鱗の一部がキラキラと黄金に輝いていてとても美しい。  クラウスだ。五百年生きている竜。人間の姿も綺麗だけど、ドラゴンの姿もすごく煌びやかだ。 「ド、ドラゴン……」 「竜だ……」 「なんで竜が」  宮廷魔道士が回復魔法をかけ続けながらゆらりと立ち上がった。頭の中に声が響く。 (チビすけ、宮廷魔道士は俺に任せて王子を連れて城を出ろ。お前が受けた借りは俺が返しとくから) (うん。ありがとう、クラウス) 「ヒース、ジェイソン、今のうちに出よう。ヒースの城へ」 「竜が……あれもお前の仲間なのか?」 「そうだよ」  呆然としている二人の手を引っ張って大聖堂をでる。兵士たちは気絶しているか驚いているかで誰も追いかけてこない。  大聖堂を出ると同時に響く、落雷のような音。それにケネスの叫び声。すごく嫌なやつだし自業自得だけど、ケネスが宮廷魔道士を呼ぶ声は悲痛でいつまでも耳に残った。
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