王族と竜

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 村人のみんなに囲まれてるヒース。本当に領地のみんなに愛されてるんだな。俺は子供たちに遠巻きに棒でつつかれながらその様子を眺めていた。草むらにこっそり入って変身しようか考えていると、女の人に声をかけられた。 「もしかして、カルなの……?」 「キュイ?」  振り向くと、赤ちゃんの頃お世話をしてくれたおばちゃんが立っていた。目に涙を浮かべてる。 「お城から冷たくなって帰ってきて……私たちみんなお前は死んだと思ってたんだよ」 「キュイ!」  飛びついておばちゃんの涙をペロペロ舐めると 「大きくなったね」 と言いながら笑ってくれた。  ジェイソンさんがゲイルに乗って帰ってきたのはその日の真夜中だ。疲れてボロボロになっていたけど、大きな怪我もなくヒースと再会を喜び合う。ヒースは村の人たちを全員お城に入れて、王城からの攻撃に備えたけど、再び攻撃を受けることはなかった。  懐かしいお城は少し小さく、古くなっていたけど、ひさびさに戻ってきた主人を優しく出迎えてくれた。竜の姿だと何も出来ないので、変身してみんなの前に姿を見せると従者たちにものすごく驚かれた。  事態が落ち着いたのはそれから一ヶ月程度先だ。エリオットが次期国王として王位を継承した。エリオットが王位を継げたのは、伝説の竜を召喚できたからという噂が王都の住民の間で広がっているらしい。竜の恩恵にあずかりたいと、貴族たちはこぞってエリオットを国王に推薦したそうだ。  宮廷魔道士は亡くなり、ケネスは抜け殻のようになって王城のどこかで軟禁されている。そんな話を少しだけ悲しそうな表情のヒースから教えてもらった。
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