人間じゃなかった

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 気づくと暖かいぬるま湯の中に浸かっていた。身体をまるめて水の中に浮かんでる。でもちょっと狭いな。手足が伸ばせない。  周りはよく見えないけど、ぼんやりと明るいような気がする。音は聞こえるな。壁一枚隔てたような少し遠い音だけど。  これで異世界に転生したのかな。あかちゃんからスタートなのか? うまく動けないけどもしかしてお腹の中か? なにもそんな最初からスタートしなくてもいいのに。物心つくくらいからで。いくらチート能力があっても今はなにも出来ないよ。  暇だなぁ。  ゴロゴロしていたら、突然激しい振動が伝わって来た。おいおい、激しい運動はダメだ。お腹に俺がいるんだぞ。どうなってるんだ。ぐるぐる回りすぎて洗濯機の中にいるみたいだ。  うわぁ~。目が回る。  ストップ! ストップ! と念を送るけど何の効果もなく(チート能力あるんじゃないのか)ぐるぐる回されて洗濯から乾燥までさせられた洗濯物の気分になった。もうダメだ。俺の人生終わった。心なしか寒い。あったかぬるま湯がだんだん冷えて来ている。  寒いなぁ。出来るだけ縮こまろう、ってもうすでに最初から丸まってるけど。  ガタガタ震えながらどれくらいの時が経っただろう。これ以上時間が過ぎたらもう一度行列に逆戻りだと思った時、ふいに寒さがおさまった。  視界が少しだけ暗くなる。何かに包まれているみたいだ。  なにも見えないけどくぐもった声は聞こえた。じっと耳を澄ます。なにしろ俺の人生がかかってるんだからな、何が起きたか知りたい。 (卵だ!)  たしかにそう聞こえた。子供の声みたいだ。 (デカイな。これ何の卵だろう。まだ暖かい。暖めていい?)  ていうか、卵?  お腹じゃなくて、卵なのか?  人間じゃないのか? 俺。鳥か魚の二択の列に並んでるやつと変わらないじゃないか。  でもまあ、いいか。  暖かくなって、いい気分になって来た。とりあえず命は助かったみたいだ。
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