別れ?

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 おばちゃんに作ってもらった服が大きくなって首輪と一緒に落ちてる。これは持っていこう。前足と後ろ足でなんとか折り畳むと、真ん中を口に咥えた。鉄格子をするりと抜けると、一度だけ牢屋の中を振り返る。じゃあな、こんな住み心地の悪い寝床には二度と来ないからな、と捨て台詞を心の中で吐いて暗い廊下を走り出した。  俺が入っていた牢屋の隣は空っぽだった。その隣も空だ。一直線の廊下の両隣にはずっと似たような牢屋があって、ごくたまに寝転がった人間が入れられている。俺が廊下を通り抜けても、ネズミだと思われているのか誰も関心を示さなかった。  少しだけ誤算があった。身体が小さいとその分距離が遠くなる。全力で走ってるつもりなのにたいして進んでない。あと地下牢の床は泥と何か分からない物でかなり汚い。おばちゃんに作ってもらった服が汚れるのは嫌だから、汚れのひどい場所は空を飛んで避け、疲れたらまた歩いてを繰り返した。ヒースの所に帰り着いたら服と身体をおばちゃんに洗ってもらおう。  汚れ以外にも自分と同じ大きさのネズミに出会うとギョッとするし、虫もいる。虫は苦手だ。自分が小さいとますます嫌だ。誰かの転生した姿なのかもしれないけど。  そんな苦労をかさねてようやく廊下の端まで辿り着いた。鉄格子の先に兵士が立っている。暗がりから兵士の様子を観察し、目を閉じた。目の前にいる兵士の光のほかに、こちらに歩いてくる光。なんとか間に合った。 「交代だ」 「やっとか。待ちくたびれたぜ」 「何か変わりは?」 「ないに決まってるだろ」  見張りの兵士は、やって来た兵士とそんな言葉を交わす。交代の兵士がもう一人の肩をポンと叩いた瞬間にジャンプしてブーツにしがみついた。装備品が多いから気づかれなさそうだと思い、ベルトから下げている革の袋までたどり着くと隙間から潜り込んで中に収まった。  ふう、疲れた。ここで少し休憩しよう。
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