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山岡愛子二十代最後の夏も仕事でヘトヘトだった。
愛子が勤める洋菓子店は駅から続く通りの一角にある。好立地な為に普段から利用客は多めだ。その上、今日からお盆休みが始まり店内は開店から賑わいを見せている。今年のお盆休みは長い人だと十連休にもなるらしい。この洋菓子店で扱うお菓子は帰省土産としても重宝されているので、店長以下、毎年嬉しい悲鳴をあげている。
「はぁぁぁ、くたびれたぁ。倉庫整理、やっと終わった……」
愛子は首にかけていたタオルを外し額と首筋の汗を拭いた。入荷商品の整理、賞味期限の先入れ先出しは、食品関係に携わる人なら基本中の基本。これを怠ると、奥から賞味期限の短くなったモノが出てきて大変なことになる。だから、この時期の倉庫整理は重要かつ、入荷量もかなり多いので重労働なのだ。愛子は動きやすいように予め脱いでいた千鳥格子のベストを着て前ボタンをとめていると、コンコンと倉庫の扉を叩く音がした。返事をする間もなく扉が開いて店長の田辺さんが入ってきた。愛子はスッと背筋を伸ばした。
「愛子さんご苦労様。休憩入って」
「店長すみません。時間がかかってしまって。納品整理終わりました」
店長はうんうんとうなずくと少し申し訳なさそうに、
「ありがとう。今日は納品多くて大変だったでしょう。ゆっくり休んできて」
「はい。それじゃ、休憩頂きます」
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