義也の気持ち

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義也の気持ち

「あのー、藤堂義也さんでしょうか?」 「はい、そうですが、どちら様でしょうか?この番号、倉田、いや今は名字が何なのかわからないんですけど、旧姓 倉田沙菜さんの電話番号ですよね?」 「そうです。私、沙菜の娘です!よかった!夕方電話したんですが繋がらなかったので、番号変わっちゃったのかと思いました。ほんとによかった。あの、実は……」 「娘さん?もしかして沙菜さん……」 「いいえ!違います!生きてますよ!入院してますが生きてます」 「あっ、よかった……」 「実は母から藤堂さんに連絡して欲しいと頼まれまして。とっても大切な人と、とっても大切な約束をしたからって」 「覚えていてくれたんだ、沙菜。あ、すいません、お母さんを呼び捨てにして。それで、どこですか、病院。急いでいきます。今から行きます!」 「えっっ。えっとー ありがとうございます。でもそこまで急がなくても大丈夫ですよ。今日明日、どうのこうのって訳じゃないんで。ご家族もいらっしゃるでしょうし、母のところに来るのは内緒にしないといけないでしょうし。そこを一番気にしてました、母。約束したから会いたい、でも迷惑かけるんじゃないかって」 「そうですか。そんなこと気にしなくていいのに。僕だって会いたいんです。沙菜は大切な人だから」 「ありがとうございます。連絡とれたって母に伝えます。会いに来てくれるって。凄く喜ぶと思います」 「じゃあ、明日。ちゃんとお見舞いを持っていかないと。手ぶらじゃみっともないな」 「その方が急いできてくれた感があって、いいかも、ですけどね!」 「そっかな。でもやっぱり、彼女に似合う男でいたいし。いい男だって思われたいから、ちゃんとしたいんです」 「母の言ったとおりですね」 「え?」 「彼はとても素直な人だ、自分の気持ちをストレートに言える素敵な人だ、そう言ってました。娘の私に、いい男だって思われたいなんて、普通は思っててもいわないと思いますよ」 「そうかな…… すいません……」 「いいえ。嬉しいです。母にこんな素敵な人がいたなんて。今日初めて聞いて、びっくりしたんですが、ずっと母の心の支えになっていて下さっていた方が、藤堂さんのような方でよかったです。お話していてほんとにそう思います。明日、母のこと、よろしくお願いします。がらにもなく、最近ちょっと弱気になってて。藤堂さんに会えば、きっと元気になります」 「はい。そうだといいです。彼女には伝えないでもらえませんか?明日、驚かせたいんです。会えるの、楽しみだな!!」 「ふふっ!なんだか子供みたい。母と一緒です。母は藤堂さんのこと話してるとき、目がキラキラして、とっても楽しそうでした。はしゃいでるっていうか、ウキウキしてるっていうか、子供が動物園に連れていってもらう前の晩みたいな」 「ははっ、恥ずかしいな」 「では、明日、私は行きませんので、よろしくお願いします」 「はい。連絡いただいて、ありがとうございました」
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