新たな思い出作り

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新たな思い出作り

僕は、昨日のうちに娘さんと主治医の先生に許可をもらっていた。沙菜の体が心配だが、2人の時間を作りたかった。ずっと一緒にいる方法を考えたんだ。新しい思い出を作りたい、そう思った。だから昨日、僕はもう帰らないつもりでここへ来たんだ。 沙菜には内緒だ。また気にするからな。それに格好いい男でいたい。家のことはちゃんとけりをつけてきた。もう戻らない。沙菜の側にずっといる。そう決めたんだ。 50歳のときにはそんな風に自分が思うなんて、想像も出来なかった。家族をずっと守っていく、そうするはずだった。でも、子供たちが成長するにつれ、もしかして、自分の気持ちに正直になってもいいんじゃないか、と考えるようになっていった。だからと言って、すぐに行動する勇気もなかったし、家族との暮らしが嫌だったわけでもないから。そのままの暮らしを続けていた。 だけど、約束の日が来たんだ。一緒に暮らす約束より先に、お見舞いに行く約束を守る日が来てしまったんだ。大切な沙菜、僕のものにしたい、はっきりそう思った。だからこれでいいんだ。僕は沙菜の側にいたい。 ちゃんと沙菜に気持ちを伝えよう。今の気持ち全部。思い出話だけじゃなくて、その時の気持ちも全部言おう。 「さあ、行くよ、沙菜」 「はーい」 「気を付けて。僕に掴まってね。車椅子、押すよ」
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