第一章 予期せぬ診断

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 私は薮アイクリニックがあるビルの一階に足を運ぶ。このビルの二階には田中皮膚科、三階には山本内科が入っており、同じビルの処方箋を全てこの薬局で受け付けることができる仕組みだ。薮アイクリニックも含めた三箇所のうちどこかの病院の処方を受ける場合には駐車場代を薬局が負担するシステムになっているらしい。おそらくはこの薬局「サニーサイドドラッグ」は、病院と業務提携でも結んでいるのだろう。  自動ドアをくぐって中へ入ると、白衣を身に纏った女性がカウンターで私を出迎えてくれた。女性に処方箋を渡して一分ほど待った頃、 「柳沼様!」  と声をかけられた。 「初めてのご利用になると思うので、こちらのご記入をお願いいたします」  女性はそう告げて、バインダーを私に手渡してきた。家からほど近い距離の薬局ではあったのだが、「サニーサイド薬局」を利用するのは今回が初めてだった。転勤と結婚を機にこっちに引っ越してきてから十年。もともと病気とはほとんど無縁の生活を送ってきたわけだから、まぁ無理もない話だ。  私はひととおり問診票を書き終え、再び女性のもとへとバインダーを戻した。十分ほど経ったところで、私は先ほどの女性から再び声をかけられた。 「柳沼様、お待たせしました。今日はどういった症状で通院されましたか?」 「ええと、目が結構痛んでいたのでかかった感じです」  私は素直にそう答えた。 「なるほど。今日のお薬は、目の殺菌をするお薬と、角膜を保護するお薬、そして、眼圧を下げるお薬です」  薬剤師の女性は青いキャップの目薬、水色のキャップの目薬、そして黄色いキャップの目薬を順番に指さしながら説明してきた。青いキャップの目薬と水色のキャップの目薬は一日三回ずつ、そして黄色のキャップの目薬は寝る前に一回点眼するよう指示書きがなされていた。 「三種類の目薬がありますが、複数の目薬を同時に点眼するときにはそれぞれ五分ずつ間隔をあけてから使ってください」  薬剤師はそう言いながら紙の袋の中に目薬を入れ、目薬保管用のビニル袋と薬の説明書をそこに同封した。その紙には三本の目薬にそれぞれ利用方法や効能、副作用などの説明が書かれていたのだが、その一番下の段、黄色い蓋の目薬の欄に書かれていた文言を私は凝視した。 「ミケラン二%点眼液 眼圧を下げて、緑内障の進行を抑える薬です」  そこには間違いなく『緑内障』と明記されていた。日本での失明原因第一位になっていることくらい、医学に疎い私にだってわかる。  ――将来、失明するのかな……?  つきつけられた現実を前に、私は呆然と立ち尽くすほかなかった。
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