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「ところで、望くんって清掃の仕事以外にバイトしてるの?」
恭弥の料理はどれも美味しく、望はぱくぱくと箸を進めていると、珍しくお酒を飲んでいる恭弥が唐突にそう尋ねてきた。
「うん。恭弥が迎えに来てくれた店で週3日くらい働いてる」
「カフェバーだよね?知り合いのお店とかなの?」
「いや、ただ普通にバイトしてるだけ。清掃の仕事って結構時間に余裕があるし、若いうちはちょっと多めに働いとこうかなーって。別に暮らしに困ってるわけじゃないけど、安心もしてられないしさ」
望の言葉に恭弥がどこか複雑そうな表情を浮かべる。
「......趣味みたいなもんだよ!時間の有効活用的な」
「そう......」
明るく言葉を重ねる望に反して、恭弥は浮かない顔をしていた。
「そのバイト、やめてくれないかって僕が言ったら怒る?」
「えっ?」
「カフェバーなら夜とか色々心配だし......若くたって働き詰めたら体壊しちゃうかもれないし......」
なぜか不安そうな恭弥に望も困ってしまう。
少しの沈黙が訪れ、再び恭弥が口を開く。
「カフェバーで働くならさ、暇な時に僕の家でハウスキーパーしない?給料も出すし、住み込みでさ......今日はたまたま部屋が綺麗だけど、普段は散らかり放題なんだ。それに、望くんが家で出迎えてくれたら嬉しいし......」
「住み込みで......ハウスキーパー......」
恭弥の提案にも驚いたが、何より彼の必死な様子が気になった。
(実際、掛け持ちしなくても大丈夫なわけだし、やめても問題はないけど......)
和やかな食事が一変、重苦しい雰囲気に包まれ、望の箸もすっかり止まった。
「あのさ、何がそんなに不安か分からないけど、恭弥が心配ならバイトは辞めるよ。でも、そのハウスキーパーっていう提案は受け入れられないかな」
恭弥が息を呑む。
「お金なんていらないから。だから、それ、俺が恭弥と一緒にいたいからって理由じゃダメ?」
お金があったに越したことはない。人間いつ何があるか分からないし、オメガである望は、保険がきくといっても通院や抑制剤などにお金がかかる。
それでも愛おしい男の頼みを聞き入れたかった。都合のいい奴になりたいわけではないが、彼と毎日会うことができたらどれだけ幸せだろうか。
望はそんな一心で先の言葉を問いかけた。
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