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心配
望と恭弥は互いに「好き」という言葉もなく、「付き合いましょう」という宣言もなく一緒に住み始めた。
同居なのか同棲なのか、自分でも分からなかったが、別に不満はなかった。
大学の清掃員である望と俳優の恭弥とでは、生活リズムが大きく異なっていたが、二人は穏やかに暮らしている。
恭弥は家をあけていることが多いため、望が家事と炊事のほとんどを担当したが、時間が合い一緒に食事を摂った際には恭弥が食器洗いをした。
朝食は、朝が早いことの多い恭弥が用意することが多かった。
風呂上がりにドライヤーをかけることはほとんどなかった望だが、「僕にやらせて」という恭弥に髪を乾かしてもらうようになった。
恭弥も家に望の部屋を用意した際、新しくベッドを入れたが、いつも恭弥の大きなベッドで一緒に眠っていた。
一人暮らしをしている時は平気だった早起きも、先に起きた恭弥にちょうどいい時間に起こされるようになってからは苦手になった。
「俺、ダメになってないか?」
広めのリビングの掃除機がけが終わり、掃除機のスイッチを切ると、望はふと大きな独り言を吐いた。
ハウスキーパーという単語を耳にしたあの夜、「都合のいい奴」になる未来を少しでも想像した自分が馬鹿だったと気づいた。そして、自分は甘やかされて確実にダメになっていると。
しかし、外に働きに出てはいるし、こうして家事もしていることを踏まえれば、寄生はしていない。
だが、これは......
「......マインドニートだ」
そんな言葉が存在するのかも分からなかったが、納得したようにまた「マインドニート」と口にしてしまう。それと同時に「まあいいか」とも。
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