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次から次へと溢れる涙を必死に拭き取る。泣きながら歩くなんて、周りの人にびっくりされちゃう。だから泣き止まなきゃ。いい思い出ができたと思おう、手が届かない人と一時だけでも夫婦になれた。
結婚式を挙げて、パーティーでは妻ですと紹介してもらえたんだから。
その思い出だけで生きていける。
「……実家、帰ろうかな」
ポツリと呟く。昨日の今日の展開で、まだお母さんたちには何も言えてない。帰ったらきっとお母さんは優しく受け入れてくれるだろう。
「でも、喧嘩するだろうなあ」
絶対お父さんと喧嘩するのは目に見えてる。私のせいでそんな姿になるの見たくないんだけど……。
しばらく安いビジネスホテルとかに泊まろうかな。今は実家に帰って蒼一さんと離婚しただなんて説明する力はない。そうだ、そうしよう。一人でぼうっと過ごすんだ。
鼻水さえ垂らしながら私はフラフラと歩き続ける。スマホでどこかホテルを探そうか、とぼんやり鞄を漁った時、背後から声がきこえた。
「咲良?」
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