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「仕事は?」
「休んできました。母さん、咲良に何かした?」
余裕のない声でそう尋ねる。母は何も答えず、そばに置いてあるスマホを取り出し何か操作している。その余裕綽々な態度が自分を苛立たせた。
近寄って見下ろす。睨みつけながら再度同じ質問を投げかけた。
「咲良に何かしましたか?」
「どうして」
「昨日様子が変だった。聞いても話してくれませんでした。だいぶ追い詰められていた」
泣きながら自分の部屋から去ったあの顔が忘れられない。いつだって笑顔で私を包んでくれていた彼女が、目と鼻を真っ赤にして泣いていた。
思い出すだけで胸が苦しい。
「今日私を呼び出したのはそれに関することなんでしょう? 一体何を」
早口でそう捲し立てると、母は少し笑った。そして組んでいた足を下ろすと私に言う。
「蒼一。
あなた、咲良さんと離婚なさい」
「…………は」
ぽかんと口を開けてしまった。彼女はじっと私を試すように見ている。突然の言葉は自分を混乱させた。
「急に何を?」
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