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いや、咲良とは形式上だけの夫婦。彼女がこの関係に嫌気がさすのは仕方ないと思っている。だが、私に何の相談もなしで勝手にこんなことを行うとは思えない。
それに、昨日の奇行と何の関係が?
母は呆然としてる私の手から紙を大事そうに取った。そして再びソファに腰掛けると優雅に紅茶を飲む。私は座る気になんてなれず、そのまま相手を見つめた。
「なぜ咲良がそんなものを?」
「無理矢理書かせたわけではありませんよ。今日の朝持ってきてくれたんです。あなたによろしく言っていましたよ。提出時期もこちらに任せると。あの子もようやく自由になってほっとしてるでしょうね」
「咲良がそんなことするはずがない!」
「何を。笑わせないで、夫婦ごっこのあなたになんでそんな断言ができるんです」
「もし……もし咲良がそれを望んでいたとしても、必ず僕に相談くらいしてくれたはず。何も言わずになんて、咲良らしくない。何かあったんです!」
そうだ。咲良に他に好きな男性がいたとしても、離婚したいならそう相談ぐらいしてくれるはずだ。こんな勝手なことをするなんて。
怒りで震える手で拳を握る。母は厳しい目でこちらを見上げた。驚いた顔で私をみる。
「意外ですね、蒼一は喜ぶかと思っていたのに」
「喜ぶわけないでしょう、こんなことを勝手に」
予想外だった私の態度に、彼女は冷たく、怒りに満ちた目に変わった。
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