8.蒼一の決意

12/30
前へ
/377ページ
次へ
「いい加減になさい。なぜそんなにあの子にこだわってるんです? 形だけの妻でしょうに。あなたはちゃんとした、本当の結婚相手を見つけるべきです」 「それは!」 「わかってますか。あなたの結婚はあなただけのものじゃない。天海家に関わってくるんですよ。跡継ぎも作れなくてどうするんですか!」  はっと目を見張った。  目の前に座る女が他人のように思えた。それほど冷たく、非道な人間に感じる。  今の一言と、昨晩咲良が起こした行動が繋がった。まさか信じられない。怒りと驚きで声すらすぐに出てこなかった。心臓が凍ってしまったのかと錯覚するくらい全身が冷える。 「……そ、んなことを、咲良に言った……?」  かろうじて絞り出した。正直、違っていてほしいとも思った。だが目の前の人間は否定しなかった。 「とても重要なことですよ。無駄な時間を過ごす必要はありません。時間は有限です」 「……正気ですか。そんな、そんなことを?」  ワナワナと震えてくる。生まれて初めて、母親を殴りたいと思った。人のプライベートに首を突っ込み責めるあさましさに吐き気を催すほどだった。
/377ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6901人が本棚に入れています
本棚に追加