8.蒼一の決意

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 同時に、昨晩の咲良の行動の意図を読み取った。だから彼女はあんなことをしたんだ。恥ずかしくて虚しい行為をしたんだ。  そして、それを知らずに拒絶した私は追い討ちをかけた。 (……つまりは)  咲良はまだなんとかして私と夫婦関係を続けようとしてくれていたということか?  頭がくらくらした。だが、今こんなことをしている場合ではない。私は振り返り、咲良の元へ行こうと足を踏み出す。 「どこへ行くんです」 「黙っててください、咲良のところへ帰ります」 「なぜ? あの子は離婚に同意してますよ」 「同意したんじゃない! 同意させたんだ!」 「蒼一」  母が自分の名前を呼ぶのを無視した時、部屋に大きなインターホンの音が鳴り響いた。その音を聞いて、もしや咲良か、と反応する。離婚を思いとどまってくれたのかもしれない。  慌てて玄関へ向かった。靴さえも履く余裕がなく、そのまま足を下ろす。鍵を開けて、勢いよくそのドアを開けた。  だが扉の向こうにいたのは望んだ人ではなかった。見慣れた新田茉莉子の顔があってぽかん、としてしまう。彼女はにっこり笑って私に頭を下げた。
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