8.蒼一の決意

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 私の視線に、新田さんは微笑んだ。信じられない思いで二人を交互に見る。  まさか、こんなことを裏で二人考えていたのか? 咲良を妻の座から下ろし、次の結婚相手を探していた? もはや怒りより呆れと失望の気持ちがほとんどだった。こんな愚かなことをしていただなんて。  確かに母は新田茉莉子を気に入っていた。だが、私の嫁にしたがるなんて話が飛躍しすぎている。一体なぜこんなことになってるんだ、理解ができない。  私は瞼を閉じて手で顔を覆った。 「……にを、勝手な」 「蒼一。きっとお似合いですよ。天海家の嫁としてもふさわしいです」 「くだらない。僕は帰る。咲良のところへ行く」  再び出口に向かって足をすすめる私の腕を、近づいて掴んだのは新田茉莉子だった。振り返ると彼女は熱い視線で私を見ていた。手入れの行き届いた色のついたネイルが目につく。咲良は爪に色は塗らなかったな、なんてことが頭に浮かんだ。 「天海さん。もう咲良さんを解放してあげてください」 「……え?」 「姉の身がわりにさせられたなんて、可哀想じゃないですか。ようやく咲良さんは自由になれたんですよ」
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