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未だ私の腕を取ったままの新田さんの手をそれとなく払った。彼女は固く口を閉じている。驚いたような声を上げたのは母の方だった。
「何を……!」
「僕は咲良と結婚したかった。今も彼女と結婚できたことが幸せでならない」
「は、はあ?」
「綾乃の逃亡を手伝ったのは僕です。綾乃がいなくなれば咲良が立候補するんじゃないかと考えた末のずるい行動ですよ」
ついに言った真実に、二人は目をまん丸にした。四つの瞳に見つめられながら毅然とした態度でいる。
特に母は信じられないとばかりにワナワナと唇を震わせた。
「まさか……嘘でしょう蒼一? あなたがそんな馬鹿なこと」
「知りませんでした? 僕はとんでもなく馬鹿な人間なんですよ。好きな子が嫌がらせに悩んでることに気づけないほどの」
鼻で笑って言いすてた。新田茉莉子が再度私の腕を取ろうと手を伸ばしたのを避ける。今はもう咲良以外に触れられたくない、と思った。
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