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急いで玄関を開けて外へ飛び出していく。走りながらスマホで咲良に電話を掛けてみる。だが相手は出なかった。舌打ちしながらしまう。
母へ離婚届を渡したと言うなら、きっと私の顔を見ずにいなくなるつもりなんだろう。だが今は昼過ぎだ、あの家にまだいるかもしれない。ちゃんと顔を見て話したい、謝ってキチンと気持ちを伝えたい。
ああ、なんで自分はあんなに逃げていたんだろう。
咲良が近くにいてくれてる間にしっかり自分の気持ちを伝えればよかった。それで失望されても、罵倒されても。失った後に焦ってももう遅いのに。
彼女と過ごす毎日が温かで幸せで、それを失うのを恐れすぎたんだ。
家にたどり着き、急いで鍵を取り出した。それを鍵穴に差し込もうとした時、自分の名前を呼ぶ声に気がついた。
「蒼一さん?」
反射的に振り返ったが、いたのは咲良ではなかった。山下さんがそこに立っていたのだ。
ああ、と思い出す。彼女はいつもうちに来て夕飯を作ってくれるんだった。今日もそのために来たのだろう。
乱れる息を少し整えて言った。
「山下さん、すみません。今日はうちは大丈夫です」
「あら、そうですか」
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