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つい顔を上げて振り返る。目を吊り上げて私を見ている彼女は、必死になって言った。
「そんなはずないです、あれは間違いなく蒼一さんへのプレゼントだったんですよ!」
「……え、でも、確かに当日」
「何か事情があったのでは? 私はあの日、チョコプレートに蒼一さんの名前を書いて飾る咲良さんの様子を見てるんですよ!」
予想外の言葉に狼狽えた。
ケーキがなかったことで、咲良の想いは違う人間に向かっているんだと再確認したのだ。
だが、それが違っていたら? 本当は私のためのケーキだったら?
あの日捨てた自惚れの考えが再度思い浮かんだ。戸惑う私に彼女は追い討ちをかける。
「蒼一さんのために頑張ってたんですよ咲良さん。あんなに……嬉しそうに。大好きな人へ作るから楽しそうに」
「大好き、って」
「好きじゃない人のために料理もあんなに練習しませんよ!」
再び私はぽかんとした。
「料理?」
聞き返す私に、今度は山下さんが驚いて返してくる。
「まだお聞きになってないんですか? もうここ最近の料理は全て咲良さんが作ってたんですよ。私はちょっと口を出すだけ。
最初から、蒼一さんの好物を作れるようになりたいとお願いされて教えていたんです。好きでもない人のためにそんなことできませんよ」
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