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だが咲良は家に帰ってきていないと言った。『友達のところにいる』とメッセージが入っただけで、その後は連絡がつかないということだった。誰のところにいるのかまでは聞いていないと。
まさかの返答に戸惑いが走る。しどろもどろになりながら、とりあえずもう一度咲良と話したくて探しているとだけ伝えた。
私に詳しい事情を聞こうとする相手の話を謝罪しながら切り上げて電話を終える。スマホを強く握りしめてそれを投げ飛ばさないように堪えた。
てっきり咲良の実家に帰ったのかと思っていた。そこへ迎えにいけば彼女はいるのだと、心の中で思い込んでいたのだ。
「友達……?」
ポツリと呟く。そして、私は咲良のそんな相手を誰一人知らないということに気付かされた。
結婚式だって、咲良の友人を呼んで挙げたわけではない。昼間は自由に遊んでいいよと言っていたが、どこで誰と出かけていたのかまで聞いていなかった。
ああ、こういうところなんだ。私たちの距離は。
お互いを探りながら交わす会話。それはやはり夫婦ではなかった。
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