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愕然としながら困惑していると、ふと部屋のテーブルの上にあるものが置いてあるのに気がついた。近づいて覗き込む。それは私が咲良に贈った結婚指輪だった。
その傍にメモがある。『お世話になりました、とても楽しかったです。ありがとうございました』可愛らしい字で短く書かれていた。
力の入らない手先で指輪を手に取る。あの日以来、咲良がこれをはめている姿を見たことはなかった。自分の左手に付けられている傷だらけのものとは違い、新品同様のそれが酷く心を痛ませた。
手のひらで指輪を握る。
まだだ。まだ終われない。
私はスマホを操作し、ある人に電話をかけた。どうか出てくれ、と心で祈っていると、相手はとても軽い様子で電話に出てくれたのだ。
『もしもーし? 珍しいわね蒼一』
久しぶりにきく綾乃の声だった。私はその瞬間ホッとする、そしてすぐに綾乃に助けを求めた。
「綾乃! 咲良が出ていった、どこにいるか分からないか?」
経緯も何も話さずそう言った。よほど自分が混乱していることがわかる。案の定、綾乃は面食らったように言った。
『え? 何よ喧嘩でもしたの?』
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