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「そんな生易しいものじゃない。実家には帰ってなくて、友達のところにいるらしいんだ。でも全然分からなくて。心あたりはないか?」
『何があったの? だってあの咲良が出ていくなんて考えられない。いつものほほんとしてて大概のことは笑って許すでしょう?』
「全部僕が悪い」
『よっぽどのことしたのね。あれだけあなたに一途な咲良が出ていくなんて』
サラリとどこか面白そうに言った綾乃の言葉を聞いて、私は言いかけた言葉をとめた。
あれだけ あなたに 一途な咲良が……
渇いた唇を少しだけ噛む。痛みが自分の心を落ち着ける唯一の材料な気がした。
『蒼一って普段要領いいくせに肝心なところ結構抜けてるから、きっと何かし』
「……綾乃」
『え?』
「咲良は……前から、僕のことが好きだったのかな?」
心にあった質問をついにぶつけた。
山下さんが教えてくれたケーキの件で、もしやという思いはあった。だが、それはこの一緒に暮らしてきた三ヶ月の間に咲良の気持ちに変化があったからなのか、それとももっと以前からのものかは分からなかった。
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