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彼は仲のいい友達だ。居心地が良くて、一緒にいるとつい気が緩む。だからこそ、いっぱいいっぱいの私にそんな優しい言葉は反則だ。
全部吐き出したくなる。蓮也に言ってもどうしようもないのに、聞いてほしいと思ってしまう。
蓮也が持っていたグラスを置く。私は少しも動かないまま自分の膝を見つめていた。
「咲良?」
蓮也がこちらを覗き込んでくる。とうとう止まらなくなりポロポロ溢れでた涙が自分の拳を濡らしていく。涙ってこんなに出るんだ、なんて感心するほどだった。
「私、蒼一さんと結婚したかったんだ」
ほとんど無意識に言葉をこぼしてしまい、慌てて口を閉じたが遅かった。蓮也は聞いて驚きで固まっている。気まずくなって視線を泳がせた。
言うつもりなかったのに。つい言ってしまった。最後まで私一人の心に秘めておきたかったのに。
「……え、それ、どういう」
「…………」
「咲良が元々、あの人を好きだったってこと?」
信じられない、とばかりに小さく首を振った。その反応に少し笑ってしまう。そうだよね、驚くよね。
頬に流れた涙を乱暴に拭き、半ばやけくそ気味に言った。
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