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私は黙り込んで俯いた。今まで一度も思ったことがなかった、蒼一さんに告白をしようなんて。だって、お姉ちゃんの婚約者を好きになるということがどれほど愚かで馬鹿なことか分かっていたから。
けどそれは言い訳なのかもしれない。ただ彼に拒絶されるのが怖かっただけ。もう拒絶されてしまった今、怖いものはないのかもしれない。
最後にもう一度だけ、あの顔を見てちゃんと別れが言えたなら。
「私……」
そうか細い声で言いかけた時だった。
部屋にインターホンが鳴る音が響いた。
お姉さんかな、と思いつつ、自分の家なら普通鍵で入ってくるだろうと思い直す。宅配便とかだろうか。
蓮也が立ち上がって画像を確認しに行く。私はそのまま一人考え事を続ける。
「咲良」
「え?」
「待ってて」
蓮也がやけに厳しい顔でそう言った。その気迫に押されてとりあえず頷く。一体どうしたんだろう、変な勧誘とかかな?
私を置いて、蓮也は玄関の方へ向かった。何気なくその後ろ姿を見送った後、私は言われた通りおとなしく座って待っていた。テレビから流れる笑い声がやけに響いている。あまり気分じゃなかったが、お笑いを眺めて過ごす。
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