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聞いたことのない蒼一さんの声だった。切羽詰まった苦しそうな声。そんな声を聞いて私は狼狽える。ただパニックになった頭で声を張り上げた。
「す、すみません勝手なことして……! でもその、もうあとの手続きは蒼一さんにお任せしたくって、私はも」
「離婚なんてしない!」
背後からそんな言葉が聞こえてきて停止した。膝を抱えたまま瞬きも忘れて唖然とする。
離婚しない、って、どうして? だって、蒼一さんが断る理由なんて何もないはずじゃない。なぜここでそんなことを言うの?
頭がぐるぐると回りながら、私は出てきた言葉そのままを声に出した。
「ど、どうしてですか。だって蒼一さんは新田さんがいるし、私となんて一緒にいても天海家のためにもならないから、だから」
あなたが好きだけど諦めたのに。
しどろもどろでそう言った時、蓮也の慌てた声が聞こえた。しかしそれとほぼ同時に、自分の後ろにあった扉が勢いよく開いたのに気がついた。ふわりとした風が吹いて私の髪を揺らす。反射的に後ろを見上げてみれば、好きでたまらない人の顔がそこにはあった。
「……蒼一、さん」
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