9.咲良の答え

19/34

6895人が本棚に入れています
本棚に追加
/377ページ
 聞いたことのない蒼一さんの声だった。切羽詰まった苦しそうな声。そんな声を聞いて私は狼狽える。ただパニックになった頭で声を張り上げた。 「す、すみません勝手なことして……! でもその、もうあとの手続きは蒼一さんにお任せしたくって、私はも」 「離婚なんてしない!」  背後からそんな言葉が聞こえてきて停止した。膝を抱えたまま瞬きも忘れて唖然とする。  離婚しない、って、どうして? だって、蒼一さんが断る理由なんて何もないはずじゃない。なぜここでそんなことを言うの?  頭がぐるぐると回りながら、私は出てきた言葉そのままを声に出した。 「ど、どうしてですか。だって蒼一さんは新田さんがいるし、私となんて一緒にいても天海家のためにもならないから、だから」  あなたが好きだけど諦めたのに。  しどろもどろでそう言った時、蓮也の慌てた声が聞こえた。しかしそれとほぼ同時に、自分の後ろにあった扉が勢いよく開いたのに気がついた。ふわりとした風が吹いて私の髪を揺らす。反射的に後ろを見上げてみれば、好きでたまらない人の顔がそこにはあった。 「……蒼一、さん」
/377ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6895人が本棚に入れています
本棚に追加