9.咲良の答え

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 彼の背中に手を回す勇気はなかった。ただ棒立ちになりながら、そのぬくもりと香りに包まれてされるがままでいる。  もう会うこともないかもしれないと思っていた好きな人が目の前にいて、私を抱きしめてくれている。それだけで、自分の涙腺が緩むには十分なことだった。 「何でよりにもよってここにいたの……」 「え」 「ううん、違うね。僕が全部悪かったんだ、咲良ちゃんが出て行ったのは僕のせいなんだから、こんなことを言う資格ないんだけど」  そして耳元で、蒼一さんが苦しそうに呟いた。 「ずっと好きだった」
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