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聞き間違いかと疑った。夜風に紛れて落ちた何か適当な音を、私が脳内で求めていた言葉に置き換えたのかと。
だって、そんな言葉が耳に届くはずがない。ほしくてたまらなかった言葉を、蒼一さんが言うわけがないんだから。
「…………え」
それでも、信じられない私に再び彼は言葉をかけた。さっきより少し大きな声ではっきりと、呟く。
「咲良ちゃんがずっと好きだった」
夜風の悪戯などではなかった。間違いなく蒼一さんの声が私の脳を揺らした。状況についていけない自分は声も、それどころか吐息も漏らせずにただ黙っていた。
そっと蒼一さんが私を離す。視界に入ってきた顔は切なげで苦しそうな顔だった。私を覗き込むその瞳が、潤んで揺れていた。
「ずっと言えなくてごめん。臆病で、弱くてごめん。そのために苦しめた」
「……ま、ってください、……え?」
「優しくて、明るくて、人を思いやれる君が好きだった。ずっと昔から」
「嘘、です」
「嘘なんてつかない。信じられないかもしれない、でも信じてもらえるまで言う。
僕はずっと咲良ちゃんが好きだった」
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