9.咲良の答え

23/34

6895人が本棚に入れています
本棚に追加
/377ページ
 聞き間違いかと疑った。夜風に紛れて落ちた何か適当な音を、私が脳内で求めていた言葉に置き換えたのかと。  だって、そんな言葉が耳に届くはずがない。ほしくてたまらなかった言葉を、蒼一さんが言うわけがないんだから。 「…………え」  それでも、信じられない私に再び彼は言葉をかけた。さっきより少し大きな声ではっきりと、呟く。 「咲良ちゃんがずっと好きだった」  夜風の悪戯などではなかった。間違いなく蒼一さんの声が私の脳を揺らした。状況についていけない自分は声も、それどころか吐息も漏らせずにただ黙っていた。  そっと蒼一さんが私を離す。視界に入ってきた顔は切なげで苦しそうな顔だった。私を覗き込むその瞳が、潤んで揺れていた。 「ずっと言えなくてごめん。臆病で、弱くてごめん。そのために苦しめた」 「……ま、ってください、……え?」 「優しくて、明るくて、人を思いやれる君が好きだった。ずっと昔から」 「嘘、です」 「嘘なんてつかない。信じられないかもしれない、でも信じてもらえるまで言う。  僕はずっと咲良ちゃんが好きだった」
/377ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6895人が本棚に入れています
本棚に追加