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少しして蒼一さんが離れ、沈黙が流れる。私は今更恥ずかしさが襲ってきて視線を下げた。顔が真っ赤になっている自覚はあった。今が夜でよかったと思う、こんな締まりのない顔見られたくなかった。
こんな時どうしていいのかわからないくらい、私は恋愛経験が不足している。どんなことをいえばいいのか、どう振る舞えばいいのかもわからない。
私の困っている様子に気がついたのか。蒼一さんは気を逸らすように突然聞いた。
「ケーキ」
「え?」
彼は少し視線を泳がせて続ける。
「僕の誕生日。ケーキ焼いてくれたの?」
「なんで知ってるんですか?」
目を丸くして聞き返した。ゴミとして捨ててしまったホールケーキ。蒼一さんには見つかっていないはずなのに。
私の返事に、彼は深くため息をついた。そして手で顔を覆いながら言う。
「誕生日より前に山下さんに会って……ケーキ焼く練習してるって聞いてたんだ。でも当日無かった。だからてっきり、他の好きな人に渡すために練習してたのかとおもって」
「まさか!」
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