9.咲良の答え

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「それよりも前、初めて一緒に寝る時もガチガチになってたのを見て、嫌なんだなって。他に好きな人がいるんだって思って、咲良ちゃんに触れなかった」 「あれは嫌だったわけじゃないです!」  私は慌てて否定した。まさか、そんなふうに思われていたなんて。好きな人がいますと断言したのがよくなかったのだろうか。あの夜は、ただただ緊張していただけだ。 「その、蒼一さんと結婚したこと自体信じられなかったっていうか、怒涛の展開についていけてなくて。緊張でこわばってただけです。決して嫌なんかじゃなかった」  そう答えた後、自分も思っていたことをおずおずと尋ねてみた。 「私はその、蒼一さんはお姉ちゃんが好きなんだとずっと思ってて」 「え?」 「いなくなって引きずってるのかなって。新田さんはお姉ちゃんと似たタイプだったし、お似合いだなって……私はそんな対象に見えてると思われてなかったんです」  小さくなって言うと、彼は黙ってハンドルに突っ伏し顔を隠した。ボソリと小声で言う。 「……綾乃は親友って感じだったから。いや、言い訳はよくないな。第三者からは状況的にそう見えるのはしょうがない、ちゃんと言わなかった僕のせいだ。ごめん」 「い、いえ私が勝手に思い込んでただけで」 「ケーキは?」  蒼一さんがやけに低い声で聞いてきた。その顔を見ると、どこか怒っているとさえ思えるような顔。私は正直に答えた。 「あの、蒼一さんに電話かけたんです。ゆっくり食事してきていいですよって伝えたくて……そしたらその、新田さんが出て。『誕生日ぐらい二人で食事に行こうと蒼一さんから誘われた』って、聞いて。美味しいケーキも食べるって言ってたから、作った物はゴミ箱に……」  私の答えに、彼は大きく上を仰いだ。はあと深いため息も聞こえてくる。そんな様子が気になって、私は隣を見つめた。
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