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「……くそ」
「蒼一さん?」
彼からそんな言葉聞いたことが無かった私は驚いて声を出してしまった。そもそも、蒼一さんが苛立ってるところすら見たことないというのに。
彼はゆっくり頭を戻すと、私の方を向いた。そしてしっかりした声で言う。
「正直に言う。あの日、大事なプロジェクトに関わってる人から相談があると聞いて新田さんと店に行った。その人はなかなか来なかった。途中で携帯を置いたままトイレに出たのは覚えてる。
結局は相談があるなんて新田さんの嘘だとわかったんだ。その後彼女に告白されて、断って帰った。それが真相」
「え……」
「その……正直、彼女の好意は薄々感じてた。でもまさか、そういうことをするなんて思ってなくて。自分は甘いな」
蒼一さんは再び大きなため息を吐いた。私はあの日電話で交わした会話を思い出す。
全部嘘だったんだ。新田さんの。そういえば確かに、新田さんからは会うたびにちょっと敵意を感じていた。
真実を知って手が震える。私は愕然としてつぶやいた。
「ごめんなさい……私、蒼一さんの言葉より新田さんの言葉を信じたなんて」
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