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「それまでの僕の態度がいけなかったんだ、咲良ちゃんは悪くない」
「でも。なんで蒼一さんを信じなかったんだろう。すごく簡単な答えだったのに、私」
「咲良ちゃん」
震える私の手を、蒼一さんが握った。そのぬくもりを感じただけで、ぴたりと自分の手が収まるのを自覚する。顔を上げると、蒼一さんがじっとこちらを見ていた。
「僕は遠回りしすぎた。臆病だったせいで、前に進むことを恐れてたから。
でももう迷わない。欲しいものはちゃんと欲しいと声を上げる。最初から全部やり直したい」
そう言った彼は、もう片方の手でポケットを漁った。何かを取り出して囁く。
「初めからこうすればよかったんだ」
大きな手がそっと開く。見覚えのあるものだ。傷ひとつない銀色にひかる小さな輪は、彼の手の真ん中で輝いていた。
あ、と小さく声を漏らす。たった一度だけ身につけた指輪だった。
「僕と結婚して。君と一緒にいたいから」
それはお姉ちゃんの身代わりなどではなく、私に向けられた言葉。
私はただ、無言で蒼一さんの顔と目の前にある指輪を交互に見つめた。喜びと切なさで声をなくしてしまった。
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