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その後ろから、母が駆け寄ってくる。
「蒼一! あなたどこに行ってたの? 何度も連絡したのよ!」
そう言った母も、咲良の姿を見つけて表情を固くさせた。咲良は落ち着かないように俯く。私は二人から咲良を隠すようにやや前にでた。
「あ、あら咲良さん……こんばんは」
「こ、こんばんは」
咲良は律儀に挨拶を返す。母はソワソワしながらも奥にあるソファへと移動した。新田さんはその場から動かず、何かを言いたそうにしている。そんな彼女を無視して、私と咲良は母の元へと近づいた。
座ることなく、二人で母の前に立った。咲良の手をしっかり握ったまま。母もその様子に気がついたようで、繋がっている手をじっと見た。
「なんです、二人並んで。一体今まで何を」
「僕たち離婚はしません」
単刀直入にそう言った。母がゆっくり顔をあげる。
複雑そうな顔だった。失笑してしまいそうだ。これほどハッキリ言われて、まだ納得いかない顔をするなんて。
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