6893人が本棚に入れています
本棚に追加
/377ページ
わかっていた。これはもうこの人の意地なのだ。昔からそう、頑固で自分の非を認めたがらない。頭がよく決断力もある女性なのは尊敬していたが、今はもうそんな気持ちはない。ただ失望するだけだ。
母は首を傾げて言う。
「咲良さんが朝離婚届を持ってきてくれたんだけど」
「母さんが書かせたんでしょう? あの紙はもうないし無効です。何か問題がありますか? 僕たちは話し合ってちゃんと進むことにした。これ以上の答えはない」
「今更ちゃんと進めるっていうの?」
「しっかり話した。お互いの気持ちはもう理解しあったんだ、母さんたちにとやかく言われる覚えはない」
睨みながらそう言うも、それでもあの人は頷かなかった。笑って『そうなの、じゃあこれから頑張ってね』なんて言えたらいいのに。
だがそれは想定内だった。自分の母親の性格をわかっていない子供なんていない。小さくため息をつく。やはり、ダメか。
私は心を決めた。迷いなく告げる。
「もういい」
「え?」
最初のコメントを投稿しよう!