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「どうしても咲良を天海家の嫁と認めたくないっていうならそれでいいです。いつまでも二人で結託しててください。僕が一番守りたいのは咲良です、あなた方のことなんてどうでもいい」
私は繋いでいる咲良の手をなお強く握った。しっかりと母の目を見据える。
こんな人でも、幼い頃は優しいお母さん、だったのにな。間違いなく、私を育ててくれた人だった。
「僕はもう天海の名はいりません」
「……は」
母がぽかんと口を開ける。無言で咲良がこちらを見上げた。それと同時に、私の手を握り返してくれた。
目をまん丸にしてこちらを見てくる母の視線から逃げることなく答えた。背後で、新田茉莉子も戸惑っているのを感じる。私はさらに続けた。
「会社は継ぎません。あなた方にも二度と会いません。仕事もやめて、自力で転職します。……咲良ちゃんには苦労かけることもあるかもしれないけど、もう決めた」
私はゆっくり隣を見た。心配そうに、それでも決意を固くした彼女の顔が目に入る。
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