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継ぐはずだった家の会社を捨てて、普通の社員になれば、思っていた生活とは違ったものになるかもしれない。やりたかった仕事に就けるとも限らない。経済面だって。それでも、咲良を苦しませる因子がそばにあるのにこのままでいるわけにはいかなかった。
全部捨ててやる。全部いらない。
何もかもゼロにして、咲良と穏やかに暮らしたかった。このままでは、私の目が届かないところで敵が何をしてくるか分からない。この人たちが知らない場所でやり直したい。
本当ならこんな結末は望んでいなかった。そりゃ自分を育ててくれた親に祝福されながら生活を送りたかった。それが一番幸せな道だった。
それでも、この人を見ているにそれは無理だと思い知った。母の心にある分厚い雲は結局晴れることはない、残念ながら綺麗さっぱりハッピーエンドとはいかないということ。
だったら仕方ない。咲良と二人で困難でも私たちの道を進んでいく。
母が慌てたように立ち上がる。
「な、何を言ってるの? あなたがいなくなったらうちがどうなると思ってるの?」
「知りませんよ。二人で跡継ぎでも探したらどうですか」
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